東急ハンズは、POS（Point of sales：販売時点情報管理）システムの自社開発に着手し、2015年12月にハンズビーという別業態の小型専門店から導入をスタート。2019年4月までに東急ハンズ・ハズビー全店に導入した。これはiPadを使ったレジを自分たちで作る取り組みだったという。
同社では、これと同時期に従業員の業務用端末としてiPhoneを使用し始め、iPadとiPhoneを合計1万台購入した。当時、日本のスマホシェアの約半分がiPhoneで、OSが変わっても同じ環境で使用できるからだ。全店にiPadとiPhoneを導入するためには、導入チームを組み、機械のセットアップや店舗スタッフからの質問への対応などを行った。使いにくいところがあればその場で直したり、現場の声を吸い上げて使いやすいようにシステムに改良を加えたりもした。
AWSを利用してPOSシステムを開発するにはいろいろなやり方がある。どのような仕様に落とし込むか現場の声を丹念にヒアリングすることで、業務に合わせた使いやすいシステムを開発することができたという。
このPOSシステム導入前は、レジにたくさんボタンがあり、押す順番を人が把握していなければ使用できなかった。しかし、iPadを使った新POSシステムは、業務の流れに合わせて変化する画面をタッチで操作するよう作られているので悩む必要がなく、教育期間も以前に比べて短くなって、まさに業務をシステムでサポートできるようになったという。
新しい機能の追加やシステム開発を外部ベンダーに依頼すると500万円から1000万円くらいの費用がかかるが、ハンズラボのエンジニア数名が数カ月ほどで対応し、コストを掛けずスピーディーに開発することができた。急な変更指示にも対応しやすく、近年ではQRコード決済やセミセルフレジも低コストで開発した。

ハンズラボは、2013年にAWS認定コンサルティングパートナーに認定され、2015年にはアドバンスドコンサルティングパートナーに昇格した。自社で東急ハンズのすべてのシステムをAWSに移行した豊富な経験とノウハウを生かし、さまざまなクライアントに業務に最適なシステムの提案・開発を行っている。
エンジニアの中には東急ハンズで小売りの現場に立っていたスタッフもおり、小売業の知識も十分に持ち合わせているため、クライアントのお客様は小売業をはじめ多岐にわたり、不動産、飲食、ペットショップにも及ぶ。AWSにシステム移行をしたいお客様の業務を丁寧にヒアリングし、自分たちが味わった同じ苦労はさせないという思いで開発に臨んでいるという。
AWSのようなクラウド化のメリットは、コストのコントロールができること。AWSの利用料を１年分先買いすることで安くなり、浮いた分の予算で新しいことに投資できる。さらに、AWSのサーバーの増減も自由にでき、途中で新しい機能に乗り換えることができるので、常に最新のシステムを維持できることもメリットだ。
古いシステムからスタートしても、新しいところに追いつける。そんな魅力あるAWSにシステムを移行したいというクライアントの希望をかなえたいと考えている。

AWS導入の決め手は、可用性（トラブルには異なるバックアップからリカバリするなど、システムが継続して稼働できる度合いや能力のこと）に大きなメリットを感じたこと。また、単純にサーバーを買う手続きが必要なくなったことも大きい。
東急ハンズは、年に一度、大バーゲンセールを開催しているが、その時期になるとECサイトには1分間に約1.5万アクセス、通常の10倍ものアクセスがある。ECサイトを始めて数年はサーバーがダウンすることもあり、機会損失となって売上に影響を及ぼすこともあった。AWS導入前の通常のシステムの場合、この対策としてサーバーをもう1つ用意し、ピークを迎えるためのテストなどを行って対応していた。当時は、追加でサーバーを導入すると1台数千万円かかり、この減価償却には長い期間が必要だった。
しかし、AWSの場合は、ピークに合わせてスケールアップ（サーバーの強化）をすることも可能。従量制なので使った分だけ支払うシステムなので、使えば使うほど費用は高くなるが、使わないときは低くできる。トータルで考えれば、サーバーを購入するよりも安くなる。AWSを導入してからはコストダウンのほか、サーバーがダウンすることなく安定して稼働しているという。