クライアントは、大手旅行代理店である。中でも力を入れているのが、MICE（Meeting、Incentive Travel、Convention、Exhibition/Event）と呼ばれる大規模なイベント・会議関連の事業だ。企業研修、国際会議、展示会など多様な形態を含むMICE事業は、同社の売上においても大きな比率を占めており、日ごろからその獲得に積極的に取り組んでいた。
しかしながら、受け入れ体制には大きな課題を抱えていた。予約申し込み用のフォーマットは用意されていたものの、MICE案件が発生するたびに専用のWebサイトを一から作成し、あらゆる項目を手作業で入力・管理する必要があったのである。予約内容は、宿泊手配、交通手段、食事（弁当含む）、ノベルティやお土産といった幅広い項目に及ぶ。案件ごとに規模や要望も異なり、項目の追加や調整が頻発するため、MICE関連の引き合いが増えても、すべてに対応しきれないという状況が続いていた。
こうした背景を踏まえ、同社は対応力の強化と業務負担の軽減を両立すべく、MICE案件に関する予約受付業務をシステム化し、既存サイトの改修に踏み切ることを決断した。主催者からの要望には迅速に応えつつ、参加者にとっても視認性・操作性に優れた予約フォーマットを提供すること、そして大量の申込み処理にも対応可能な体制を整えることを主眼に、システムの設計と開発が進められることとなった。

本プロジェクトにおいて、特に重視されたのがセキュリティ対策である。MICE案件の特性上、数百～数千人規模の参加者の個人情報を取り扱うケースが多く、情報の安全管理は最優先事項だった。
その対策として検討されたのが、ECパッケージの導入である。元来、ECパッケージは高いセキュリティ性能を備えており、MICEのような商品・サービスの申し込みを扱うスキームにも通じる部分がある。MICEを“商品”として捉えることで、ECの枠組みを応用できる可能性が見出された。
慎重な検討を重ねた結果、セキュリティ性と柔軟性の両立を図るべく、ECパッケージのフレームワークを活用しつつ、それ以外の部分はフルスクラッチで開発するというハイブリッドな構成を採用することとなった。
このようなシステム設計は一般的には珍しいケースといえるが、それゆえに、クライアントから求められていた「案件ごとに柔軟な対応が可能なシステムを」という要望を的確に実現することができたという。この取り組みは高く評価され、最終的にはクライアント社内で社長賞を受賞する成果にもつながった。
現在も引き続き、同プロジェクトの運用保守および機能改修を担当しており、業務の変化に即した対応を日々行っている。プロジェクトメンバーからは、「進化し続ける現場と向き合いながら、クライアントの要望に応える手応えを感じている」と語られている。